Web版ひであき日記

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  (未定稿)フィンランド自殺予防対策について
2008年08月26日 (火)

panda.gif フィンランドの永住市民権を持つ日本人通訳Mさんと終日同行。様々な話を聞かせてもらう(以下、昨日の大使館職員から情報とあわせて引用多数。他のHP等にはあまり見られない情報などを記載)。

まずバスでヘルシンキ市内のウォーターフロント地区へ。半そで歩いている人は1人もいない。上着を必ず来ている。ソ連のフルシチョフ、イギリスのサッチャー、アメリカのキッシンジャーも来たというテント朝市で朝食。その後、ヘルシンキ市庁舎を訪問。フィンランドやヨーロッパ諸国では基本的に市庁舎と市役所は違うようで、ここには市長室と市議会がある。市役所は別にあり、行政担当部局が入っている。


朝ごはんはピロシキ1個



ヘルシンキ市庁舎の隣はフィンランド大統領府


元老院広場を歩いていると、ロシアのアレクサンドル1世の銅像を発見。ソ連と戦争をして敗れ、多額の賠償金を支払ったフィンランドで、なぜロシア皇帝の銅像が倒されることもなく昔のまま中心地に立っているのか疑問に思い聞いてみると、1300年頃からスウェーデンの支配下にあったフィンランドが1809年にロシアに割譲された時に、初めて自治を認めてくれた人物が銅像のロシア皇帝アレクサンドル1世という。その後のロシア統治時代の中でもロシア最後の皇帝として知られるニコライ2世についてはロシア化政策や圧政を行ったため、フィンランドが独立した時(ロシア革命時)にニコライ2世に関係するものは破壊されたという。直接戦争したソ連は当然ながら嫌われたそうだ。そのほか超大国と直接国境を接する小国の苦労もきかせてもらう。Mさんはこの国は政治家が立派だからロシアに併合されずに独立を保っていると考えているようだ。

資源は木だけのフィンランド。世界的大企業は携帯電話のノキアぐらい。自動車会社もない。一方で国民1人当たりのGDPが日本より高い。Mさんは、今から35年ほど前、1ドル360円の固定レート時代、サラリーマンの初任給が27000円の時代に、飛行機の機体洗いのアルバイトで貯めた40000円をもって外国に出た。東京オリンピックが終って少ししたころで日本も力をつけてきていたとはいえ、ヨーロッパをまわると日本はまだ貧乏な弱小国だった。そのうち所持金がつき、働いたが、いつのまにかフィンランドに住むようになった。フィンランドでは永住市民権を持つのは難しいことではなく、地方議会、国会には立候補・投票もできる(ただし大統領には立候補できない)。選挙カーを使った選挙運動などはないものの、キャンピングカーに垂れ幕を掲げ、街頭で対話集会を開いている候補を見たことがあるという。今、日本からバックパッカーも来ているが、身なりは別にしても、お金をもっていて裕福である。

(日本との関係)
1952年にヘルシンキ五輪が開かれた。対ソ連敗戦国にもかかわらず、戦後2回目の開催だった。日本から古橋広之進が来た。那覇から香港、タイ、○○、ストックホルムなどを乗り継いできたといわれている。短波放送で日本でも放送された。

現在、日本企業の進出はわずか。ノキアに部品を納入している企業やハウスメーカーなど。寿司屋も7軒あるが、日本人経営は1つ。外国人スリ、特に先日9人のルーマニア人窃盗団が逮捕されたが、日本人を専門に狙っていたことが判明。日本で活動していた体操のコーチもその1人だったという。日本人観光客の現金所有額は他の外国人観光客に比べて相当高いようだ。カードが普及しているとはいえ日本はまだまだ現金主義の国なのである。ルーマニアだけでなく、ブルガリアからも物乞いやスリがきているようだが、旧東欧諸国がEUに加盟し、パスポートなしで入国できるようになってからだという。

最近は「かもめ食堂」という日本映画の影響で日本人女性の観光客が増えているという。ロケ地だった「かもめ食堂」を何度も訪れる30代女性を見かけることも多く、現地の日本人としては奇異に感じるほどだという。この映画の影響か、フィンランド人男性との結婚に憧れて来る女性も多く、実際にフィンランド在住邦人1056名のうち、男性は450名、女性は606名と女性のほうが多くなっている(昨日の在フィンランド大使館提供資料2007年10月現在。同資料には「邦人女性がフィンランド人男性と婚姻をし、当国の永住権を取得するケースが急増している」と記載されている)。大いに驚く。

フィンランドでは、現在2期目の女性大統領のほか、内閣を構成する20大臣のうち12人が女性(選挙は比例代表制)。世界一女性の社会進出が進んでいる国であろう。一方で男性には徴兵制がある。7割の女性働いているおり、共働き率も世界一。日本人妻が増えているが、働かない人は駄目。インターネットで知り合い、少しお互いを知っただけで、ほとんど何も知らないまま結婚する例があり、こちらに来て労働に対する概念に驚き、(家庭に入りたい、言葉がわからないので働けないなどの理由で)離婚になる例もあるという。

フィンランドでは乳母車を押して市バス・市電に乗ると無料(ただし地下鉄は有料)。医療費は基本的に生体間移植(アメリカなどでは億単位でかかることもある)も含めて全て無料。ただし日本のような風邪での通院はあり得ない。また延命治療は行われない。

(平等の概念)
平等の概念では、罰金も所得比例である。例えばスピード違反でIT企業の高額所得者が罰金800万円(後ほど異議を申し立て300万円に減)。フィンランドでも国鉄が民営化された。鉄道会社は他の交通機関であるバスと競合しているが、「バス会社は道路を整備する義務がない」のに鉄道会社が線路を整備するのは公平ではないという考えがあり、線路整備・管理は別会社がつくられ、結果として旧国鉄会社のほかにスウェーデン やフランスの鉄道会社が鉄道に新規参入に名乗りを上げているそうだ。平等についての考えが面白い。

(行政・産業)
フィンランドには県のような中間的な行政はない。国土の7割が森林でパルプ産業とタール(防腐剤)輸出、造船業が盛んだった。造船は韓国企業に買収されるかもしれない。高速道路は無料。車は日本車もあるが価格は倍ぐらいする。国税、地方税の所得税あわせて30%ほど負担。国保や健保は別。最近は減税傾向にある。貧富の差は少し拡大する方向にあるということ。

(街づくり・熱供給など)
ヘルシンキ市の市有地は自然体の7%ほど。現在も郊外の土地取得を進めるなどその拡大を図っている。都市計画がやりやすいというメリットがある。ヘルシンキはネオン禁止条例がある。
冬は寒いが、熱供給の中心は市内の地下給湯網である。市内に火力発熱施設が3箇所あり、ここで水を温め、各家庭に配水している。途中温度低下がある箇所では再加熱ブースターがある。地震はない。


昼食後、NATIONAL PUBULIC HEALTH INSTITUTE(フィンランド国立公衆衛生研究所)へ。フィンランドにおける自殺防止施策の調査。


国立公衆衛生研究所


まず国立公衆衛生研究所のパルタネン医師から説明を受ける。

この研究所は精神衛生、アルコール中毒、伝染病の研究所として1986年に設立されたもので、その中でも一番の研究課題は自殺の防止であった。研究の結果、数年たって問題解決方法を示した自殺防止プログラムがフィンランドの自治体に適用された。どのように成果をあげたかは後で示す。その後、次第に研究範囲が広がり、今では精神衛生をかなり広い範囲で調べている。精神衛生上の問題と行動科学、自殺の防止についてである。

2005年のフィンランド人の死因調査では、1位が心臓疾患で41%、ガンが23%と続くが、5番目として精神疾患を原因とする自殺(6%)がある。精神疾患は、落ち込み(ディプレッション)、躁うつ、アルコール依存に区分できる。躁うつはフィンランド人には少ない。フィン人の遺伝子には西洋人と比べても躁うつ病を引き起こす遺伝子が少ない。アルコール依存が原因の精神疾患は男性6.5%、女1.4%と男性に多くなっている。仕事を失う2番目の理由も精神疾患による退職である。自殺と精神疾患はつながっている。(これをそのままにしておくと)コストが高くつくことになる。疾患で病院にいくにしても仕事を休むなどのロスを生む。推計では本来得られる2542百万ユーロが病気で失われているとも言われる。これは国民総生産の26%もの金額である。

私は今、環境が精神衛生にどのような影響を与えるかを研究しているが、フィンランドと日本が違うのは夏に日光が沈まないことである。それと自殺の関係はどうなのか。また、個人個人の運動量や何を食べているか、遺伝が関係しているか。更に自殺はどの季節におこるのかとか、人間の体内時計との関係どについてである。体内時計は外界の光、運動量、食事が大きく影響を与えることがわかってきた。

体内時計が狂う時の研究も進んでいる。時差ぼけ、季節落ち込み(フィン人は冬真っ暗になると落ち込む)、シフト勤務、夜間勤務が体内時計に悪い影響を与えている。フィンにはこれらの悪い環境が多い。これは重要な問題である。現在判明した体内時計の原理は、神経のかたまりとして動く。目から入る光が時計を動かしているのだが、フィンの冬は太陽が低く、夏は逆に沈まない。これが神経に登録される。また、体内時計は昼と夜、寝る時間、新陳代謝、細胞分裂を判断するが、睡眠により時計が正常な状態を保っているが、睡眠が狂うと時計も狂ってしまう。睡眠障害は最初の悪い(自殺の)原因である。「落ち込み」は不眠から起こるということもできる。落ち込んだ人の時計は狂っている。自殺をした人の時計も狂っている。そういう仮説が立てられる。


自殺率の推移グラフ(15歳以上)。青色(上)が男性、赤色(下)が女性。緑色(中央)が全体。


自殺率の推移についてはフィンランドは1921年から統計がある。戦後を見ると1950年ごろから女性の自殺率が増加している。その後、なぜか女性の自殺率はほぼ同じである。男性は70年代から増加し、その後、90年代で更に多くなった。90年代中ごろから落ちている。全体では1990年が最悪の自殺率である。1992年以降が自殺対策プログラムを適用させ、各自治体が自殺対策を含めた健康管理をするようになった時期である。

1970年代の自殺率の増加が注目され、政府が自殺について研究しろと命令したのが当研究所が設立された発端だが、設立後の86、87年の自殺者の背景を調べて分析した。自殺をした人の年代、生年月日を調べると1940〜49生まれの45歳ごろが一番多かった。1950〜60年代生まれは少なかった。育った社会背景が異なっていることが影響しているのかもしれないという研究結果も出た。自殺は、生年月日や年齢、社会的地位も関係があるという研究結果もあった。しかし全体では「落ち込み」から自殺しているということであった。また、自殺には様々な種類があるということもわかった。


自殺率を地域ごとに色分けしたフィンランド地図(1979〜2001)。左が女性、右が男性。色が濃い地域が自殺率が高い地域


フィンランドで男性の自殺率が高いのが北部のラプランド地方(過疎地)。一方、女性は首都圏で高い。分析すると、ラプランド地方は過疎化が進んでおり、男性が一人ぼっちになることが多い。一方、女性は結婚などで北部から首都圏や南地域に移動することがある。女性は環境の変化に弱いのではないかという仮説が立てられる。

自殺する季節についても調べたが、一年間の中で、春に多いのは共通している。男性の20年間のデータを調べると、4月の終わりから6月のはじめにかけてが一番多い。確定していないが、最も落ち込むのがその時期だと考えられる。落ち込み傾向のある人は、春や初夏に特に自殺に結びつくことがあるということである。周りの人が気をつけないといけない。日の沈まない時期(夏)に近づいた頃だが、その光が体内時計に与える影響が大きいかもしれない。(年によって)増減があるので、体内時計だけの影響ではないということもわかる。他にも原因があるということである。

国際的な自殺対策研究もある。自殺前にどんな防止のための行動ができるか。自殺を実行するまで、どのような動きがあるかを研究している。
自殺を考える人がいるとする。その背景は何か。原因は何であるか? 特に女性は何か人生の事故や原因があって落ち込み、精神的に病気になる。これが一番危険。これが自殺を考えるのである。自殺を考えるだけなら危険はないが、実行が駄目である。一つは発作的にやる人。あとは希望にもてない人(よくならないと考える人)。例えば、家庭の中でうまくいきそうにない、失業してお金がない、同僚とうまくいってない、将来も駄目。こういう人に対しては医者は会話をしたり、薬品を与えて治療しなければならない。

また、自殺に結びつく危険なものがないか。アジアの場合なら、(自殺で利用される)ねずみを殺す農薬などを入手困難にするなどの対策がとれる。それで減った。西側諸国なら(自殺で利用される)都市ガスの毒性を少なくした。(自殺で利用される銃などの)武器の入手を困難にするのも大切である。ただし、フィンは男性の銃による自殺が多いが、銃所持は一定の規制があるものの合法であり、全ての危険取り去るのは無理である。ナイフがなければ料理ができない。(首をつる)縄も社会からなくすのは無理である。危険物を除く対策は限度がある。その上の段階として自殺を考えない社会をつくらないといけない。

あとはマスコミの影響も大きい。テレビ、ラジオ、新聞で自殺の記事を制限する。自殺は(必ず)変死だから、死因の調査が行われるが、(理由は書かず)自殺したとしか書かない。体に欠陥があった(病気を苦にして?)とかの理由は一切報道しないようにしている。マネをして自殺する例もあるのでなるべく報道を控えるということである。

他には、研究の結果、大きな病気に襲われ、入院・治療し、退院後1ヶ月以内に自殺する例が非常に多い。退院後の通院治療のときは注意しないといけない。通院治療の場合、通院しなくなったり、治療を拒否した場合が危険である。医者・看護師がこれからよくなるという風に患者を励ますのも大事。落ち込みの場合は、薬を投与することで自殺の実行を減らすことができる。分裂症の場合も薬が自殺を減らしている。リティウムという薬が日光の体内時計の狂いを調整する。


フィンランド人男姓の自殺率の推移(青線)と1人あたりのアルコール摂取量(赤点線)の比較グラフ


アルコールと自殺の関係だが、フィンランド人男姓は純アルコールで年間6リットル摂取する。EU統合でアルコールも輸出入が自由化され、摂取量(赤点線)は増えた。一方で自殺率(青線)は落ちている。落ちているのはプログラムが実行された時期である。自殺とアルコールとの関係は明確でなく、個人差があるのではないかと思う。アルコールよりも「落ち込み」が非常に悪いということがはっきりした。

以上のようなことを調査した結果作られた「フィンランドの自殺防止プログラム」には7つの対策がある。
@「自殺未遂があったら、その人に注目する」ということである。1回自殺をすれば2回するだろうと予想できる。A精神治療(歴)に注目するということである。B落ち込みの状態にあるかどうか。もしそうならば精神治療を強化する必要がある。Cどのくらい酒を飲むかにも注目する。酒に逃げ込んでも問題解決にならないからである。D身体的欠陥が引き起こす場合、つまり病気(を悲観する)の場合である。同時に精神衛生にも配慮する必要がある。E大きな事故があり、配偶者が死ぬとする。そうした場合、精神衛生上の補助を与えなければならない。家族、親戚、近所の人も大切。一人暮らしの場合お医者さんも大切である。このように人生で大きなショックが自殺の原因となる場合である。これは女性に多い。F他には、危険なグループとして若い男性があげられる。社会から除外されたような男性で、落ち込んで自殺する例がある。何か袋小路に入り込み、自信がなくなり自殺するのである。その場合、自信を呼び覚ますような助言が必要である。そうして社会に引き入れる。長い時間で見ると、子供の成長をよく見守る、社会の雰囲気をよくすることも大切だ。その人に罪を感じさせる、自らに駄目の烙印を押させる、その人を責めるのは駄目である。フィンランドの古いことわざに「ムチでなく、にんじんをぶらさげよ」というものがある。個人に自信を与え、活きる喜び、上に上がる努力をさせてみることが大事である。

最新の自殺率のデータでは最悪の時から40%減少し、ようやく世界平均まで自殺率が落ちたというところである。ただし、新プログラムは男性には効いたが、女性には効いていないというデータもある。更なる研究と対策が必要である。


メモに書いてテキストに入力するのは二度手間になるため、ここからパソコンを持ち込みました


次に質疑応答。
(プログラム・医師関連)
Q.何が一番効果を挙げたのか。
A.まず一番努力したのは、落ち込んでいる男性をうまく探し出したことである。医師も関係者も努力した。フィンランドの場合、法律で健康管理は自治体の責任と規定されている。市民は体調が悪いとまず(自治体立の)医療センターに行くことになっているのだが、そこで医師が注意を払うのである。

Q.(医師は)自殺のサインをだしている人をどのようにキャッチするのか?
A.(自治体立の)医療センターにくる患者の話をきき、その人の背景をみる。何かに注目する。強い頭痛、原因不明の腹痛、下痢などの患者がいると、(肉体的な原因解明だけでなく)「落ち込み」が原因ではないかとまず注目するようにしたのである。

Q.精神科の医師ではないのか?
A.男性の場合、落ち込んでいるといって精神科医のところに来る例は少ないのが現実である。フィンランドの医師は専門以外の科目の教育も受けているので、精神科のように話を聞き出すのは得意。もし、「たまに自殺を考える」などと患者の声をうまく聞き出すと、3日後にその患者に電話をして「もう一度病院に来て下さい」などと連絡する。会社の健康診断でも医師の側から話をきいてあげるという姿勢。聞きだすことが大事。もちろん、はじめから「落ち込み」や精神疾患で通院してきた場合も重要である。

また、(大人だけでなく)若者の自殺対策としては小中高校生のための電話相談室が設置されている。親に言えない悩みなどもここでは話せる子供がいる。スタッフは教育を受けた専門家で話をきく技術がある。また、インターネットのチャットで自殺に関することを書き込むようなことにも注意している。

Q.精神科医の割合は? 若い医師は精神科を希望するのか?
A.市町村の健康センターにはほぼ全科の医師が揃っている。普通は無料。開業医はあまりない。私は患者をみていない研究者である。日本のことを知らないが、フィンランドは医者の比率が多いかもしれない。全国で約15000人の医師がいる。精神科医は1000人強ぐらいでは。全体では医師不足という状況ではなく、少し足りない程度である。ただし外科医であろうが内科医であろうが、精神科の勉強もしているので、話を聞くのは上手い。医師不足が起こったら(私のような)研究医師も現場にでるだろう。

Q.日本には産業医制度がある。こちらではどうか?
A.職場健康管理者というものの設置が義務付けられている。企業が個人医と契約する。従業員の定期診断もする。一度ではない。これは公共の医療機関とは契約できない。住民は市町村の健康管理センターで診察を受けるのは自由である。

Q.プログラムは男性に効果を発揮した一方、女性には効果がなかったということだが、新しい改善策はあるか?
A.なぜ効かなかったかわからない。落ち込み以外の要因があるかもしれない。全体としては減ったことは確か。そのあたりについてはまだ研究が行き届いていない。

Q.データを見ると、自殺要因として、落ち込み、うつ病が増えている。その状況の良し悪しを知るのは、家族など身近な人であると考えるが、このプログラムでも医療機関と職場との連携等について取り組んだのか?
A.7つの対策にある。家族、友達、職場、近所も大事というのはフィンランドでも同じ。研究結果として出ている。また、フィンランドでは一般市民向けの講習で「他人に精神的に助言を与える訓練」というものもある。赤十字では包帯の巻き方講習があるが、精神衛生上の助言を与える講習である。

(報道)
Q.自殺原因を報道させないという話があったが、報道の自由との関係は?
A.フィンランドでも表現・報道の自由は保障されており、法や条例では規制できない。自殺の研究成果を発表する時などにマスコミも呼ぶが、そうした機会に、マスコミの人に自主規制をお願いをしているということである。報道で理由を書くべきではない。薬で自殺したとすると変死だから2週間ぐらい検査にかかる。その間は死因を報道できない。それで報道しなかったらいい。特に女性誌は自殺の記事が大好きで記事も多いが、よくないことで控えるべきだ。

Q.マネ自殺という話が出たが、日本でも人気アイドルの後追い自殺があった。フィンランドでも若年層の自殺は減っていないとあったが、こうした問題はないか?
A.誰が自殺しようが周辺が悲しむ。そんな中を取材やインタビューして歩くマスコミもある。問題であると考える。

Q.自殺防止の啓発が自殺を助長しないか?
A.広報などでも自殺という言葉は使ってほしくないと思っている。

(日本)
Q.日本の場合、借金や失業などの経済的理由での自殺が多い。そうした事例や対策は?
A.ないことはないが、フィンランドでは稀である。借金で家がとられるなどを懸念して家族で自殺した例がある。競馬での借金狂いを除けば、失業保険は手厚く、健康保険も手厚い。年金制度も充実しているので、生活苦で自殺というのはあまり考えられない。

Q.それではフィンランドは福祉が充実しており、将来不安も少ないのになぜ自殺するのか?
A.福祉が充実していても、精神的なもので起こるのである。絶望感を取り除けないから自殺するのである。

暗い時に不安がおきる。冬は真っ暗である。フィン人の顔も暗い。そのときに運動するのも効果がある。いま強いランプが導入されている。強いランプのある喫茶店もできて来た。それも効くと言われている。黄色ではなく、日焼けサロンのようなものでもない。白色の強いランプである。導入2年目。調査では冬になると男性の40%が大なり小なり落ち込むのである。一方で60%は何も感じていない。これも研究課題である。夏によく寝るということも大事。あまり寝ない人も多いが、暗くして寝ることも大事だろう。

Q.日本では、自殺は自己責任であり、行政が対策を立てる必要があるのかという一部の声がある。どう思うか?
A.こちらはむしろ自殺は自己満足、わがままだと思われている。自殺した人はいいかも知れないが、周囲が迷惑をかけるとという考えがある。

(その他)
Q.EU加盟で若者の夢が広がり、自殺が減ったという要因はあるか?
A.加盟でEUの域内での旅行や引越しが自由になるなど自由は増えた。いい指摘である。影響はあるかもしれないが、それは今のところわからない。

(その後)
Q.自殺後のケアプログラムは? 子供が亡くなったりして親が自分を責める場合もある。
A.こちらでも、自分を責める場合がある。周囲の人を含めて、健康管理は自治体が負っているのでそこのセンターに通うのがいい。医者が家族を呼び出す場合もある。自分を責めてはいけない。健康センターにいって治療としてやるのがいい。


意見.兵庫県では毎年1300人が自殺している。対策を立ててもなかなか減らない。国も2年前に基本法を作ったばかりで遅れている。今回の話は大変役に立った。

意見.日本には5月病というものがある。日本でもこうした取り組みが活かされるのではないか。


終了後、ヘルシンキ市内で、昼食。こちらへ来てからというもの話の内容が勉強になることばかりのため、メモだけでも相当な量になっている。移動のバスの車中でもパソコンを使ったり、睡眠時間を減らして整理やまとめの作成などをしているが、全く追いつかない…。基本は仕事が遅いということなのだが…。

その後、TRADE UNION OF EDUCATION IN FINLAND(OAJ。フィンランド教育職員組合)を訪問。同組合は教職員の待遇向上(賃金交渉など)という労働組合としての機能のほか、教育研究機能を有し、その成果を提言として政府に提出している。後者も活動の大きな柱という。組合長と意見交換。

ここ2、3年日本からの視察が増えており、文部科学省の研究教員の視察もあった。組合としても外国との交流も大切なことだと考えているし、日本とフィンランドは「美」や「趣味」の嗜好が似ていると思っている。PISAテストについてであるが、好成績をとったことは冷静に受け止め、飛び上がって喜んでいない。なぜなら十分であるとは考えていないからである。まだまだ発展させねばならない。もちろん良かったとは思っている(笑)。北京オリンピックでは想定通りのメダルがとれなかったのだが(笑)。

当組合はナショナルセンターだが、変わっているのは、フィンランドの教育関係の唯一の組合であるということである。1991年まで11組織があったが、私が組合長に就任してから全て合併し1つになったのである。これは他の国とは違うかもしれない。

その後、質疑応答。
Q.教育の成功要因は?
A.実は我々も成功していると考えている。57カ国が参加したテストで全ての科目で1位か2位なのだから自己満足してもいいでしょう(笑)。その第一の理由は、先生のレベルが高いこと。教師になるための専門の教師教育を5〜7年かけて教師を育成している。そして、なるべく落ちこぼれのない教育。また、組合員は117000人だが、全体の95%程度が加入している。組合が一つというのもやりやすいのでは。先生の交流も一本化できる。

Q.各学校の校長と組合の関係は?
A.校長は管理職だが、校長組合をつくっており、私たち教育職員組合の下部組織である(一同驚く)。

Q.組合はどんな構成なのか?
A.117000人のうち、基礎学校教員が61%、職業学校教員が23%、就学前施設教員が14%、大学講師が2%、その他教育関係者などで構成している。大学教授と准教授は加入できない。

Q.賃金や勤務条件の交渉は誰を相手にするのか?
A.それぞれの学校設立者である自治体の長や国の担当部局の長などである。全国統一の賃上げ目標を掲げるものの、自治体によって教師の賃金は異なっている。やはり首都圏は高くなっている。自治体側は個別交渉を望んでいるが、我々は統一要求を実現させたい。

Q.日本では民間出身の教員採用がある。教師になってから適性がなかったことが判明したり、指導力不足ということも指摘されることも背景にある。フィンランドでは民間からの教師の中途採用はあるのか?
A.現在の教員は全員適格者という免状をもらって現場で教育を行っている。それを後から誰かが調べることはできない(民間から採用する必要は全くない)。

Q.子供だけでなく教師も夏休みが2ヵ月半あり、登校する必要もないという。これは組合活動の成果か?
A.教師は休みの間に追加の講習を1〜2日受けることはあるが、その他の休みは自由なので休暇を楽しんでいると思う。校長の場合は新年度のカリキュラムを考える必要があるので、もう少し登校していると思う。現在、教師の年間の勤務日は188日である。昔は、土曜も学校があったが、夏休みは今よりもっと長かった。組合がなかったら2ヶ月ぐらいになっていただろう(笑)。

組合長が自信を持って答えたPISA評価世界一の第一の理由「教師のレベルが高いこと」。まさにこれである。日本の教師養成機関である大学の教育学部の入試については近年下げ止まったものの、その倍率(人気)で厳しい状況が続いてきた。日本全体では戦後、大学進学率が向上していき、一定の底上げもはかられる中で、取り残された感すらある。相対的学力が次第に低下(偏差値の低下)というトレンドは、明治の学制開始以降高止まりしたまま太平洋戦争を迎え、戦後は一貫してその権威とともに低下してきていると容易に推測できる。出生数の減少、採用数の減少という要因で採用試験の倍率は一定の高さを保ち、一定のレベルを保っているとはいえ、そもそもの職業人気を上げて、間口を広げ、進学段階でのレベルも向上させなければ、全く太刀打ちできないと思う。

大分県の不正採用事件で見られたように世間との意識乖離は変わっていないし、あわせて世襲化も進んでいるようだ。社会規範の崩壊やゆとり教育の見直しなど教育方針の度重なる方針転換(政治の誤り)、授業以外の書類作成などの事務、モンスターペアレントへの対応や家庭で行うべき子供のしつけまで教師に求められる日本の教師。少しばかり給与が高いというだけで、更に多くの人が希望する職業にすることができるだろうか。

年間188日の教育。子供には夏休みの宿題もない。社会全体で人気があり、尊敬される職業につくために、多くのコストをかけて、厳しい倍率の中を競争し、適性が確かめられたものだけが教員免状をもらえる。落ちこぼれをなくすことで底上げをはかったことが成績上昇の理由として挙げられているが、それより教師のレベルが大切なのはこの組合長の言う通りだと思う。


組合長に御礼を述べる視察団のF団長。小学校の先生出身です。お土産は風呂敷と扇子。



終了後、バスでヘルシンキ空港へ。車窓から相当な歴史を感じさせる街並みを見ていると、ソ連と戦争して空爆を受けた街とは思えないと思っていたら、「石やレンガの建物の場合、爆弾があたったところは破壊され、今でもその傷は残っているところがあるが、燃え広がらないんです」と。古い建物を大切にするフィンランド人。百年単位で使える建物なので、マンションの価格が下落することもほとんどないという。最後にMさんに日本から議員の視察はよくありますか?と聞くと答えて曰く「日本でオンブズマンが活動するようになって変な視察はほとんどなくなったよ」。…。デンマークの首都コペンハーゲンへ。

空港でデンマーククローネに両替。手数料が高い。EUの加盟国だが、通貨ユーロのへの参加は国民投票で否決されたためクローネのままなのである。バスでホテルへ。フィンランドとは同じ北欧というイメージがあったが、街並みの趣は異なるし、気温も高い。


ネオンの点滅が許されているコペンハーゲン市。中央はマクドナルドのネオンサイン。もったいない。



ホテルにチェックイン後、すぐに外出。JETRO(日本貿易振興機構)のKコペンハーゲン事務所長との懇談会。Kさんは財務省出身。いろいろデンマークの実情について教えて頂く。昨日のフィンランド大使館との意見交換会に続き、兵庫県パリ事務所のH所長の尽力でセットして頂いたものである。県議でこれだけの会合をセットしてもらえるというのは本当にありがたいことである。その後、事件発生。驚く。
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